華~smile~
(りん)ね、死んじゃった…… もう、凛とは…会えないんだって…… 泣きながら告げられた凛ママからの言葉。 その言葉を聞いてから、もう三度目の冬が来た。 「おはよ、希子(きこ)ちゃん」 毎日毎日、訪れては私の世話をしてくれるのは妹の美子(みこ)。 凛の死に向き合えないままの私は、生きているとは言い難い生活を送っていた。 食事も(ろく)に取らず、お風呂さえも入ろうとはせず、外になんて一歩も出ない。 俗に言う引きこもりになってしまったのだ。 家族は一人暮らしだった私を気にかけて、家に引き戻そうとした。 このままじゃ希子が死んじゃうって。 でも私は家には戻りたくなかった。 だって、この部屋には凛との思い出がたくさん溢れてるから…… 一度、母と美子がその話をしに来たけど私は「凛の思い出があるの! ここには、いっぱい凛がいるの!!」と泣き叫ぶことしか出来なかった。 美子がそんな私を見かねて、私が希子ちゃんのアパートの近くに住んでご飯とか作ってあげるから、と言ってくれ私はこの部屋に残ることが出来た。 自分が情けないことをしてるなんて知ってる。 姉として美子にはすごく迷惑かけてるなんてことも分かってる。 だけど私は、何をしようにも凛との思い出に結び付けてしまって…… 涙を流すことしか出来ない。 「希子ちゃん、今日は希子ちゃんの大好きなカレーだからね」 美子は優しい。 毎日毎日嫌な顔せず私にご飯を作って、お皿も片づけてくれるんだから。 それでも私はそんな美子に与えて貰ってばかりで何も与えてやることが出来ない。 こんな私を見たら、きっと凛は怒るだろうね。 「希子!! 自分のことは自分でする! あんたはやれば出来る子なんだから」 いつもいつも凛は母親みたいに私を説教していた。 それが愛情だってことも分かってたから全然苦ではなかったけど。 ねぇ、なんで? なんで私から凛を奪ったの? なんで凛が死ななきゃいけなかったの? どうして 凛 を…… 「はい、希子ちゃん出来たよ!」 「…うん」 私は美子の作ってくれたカレーを食べた。 美子は私と違って料理が上手い。 …凛も、料理が上手だったな。 そうやってまた凛のことを思い浮かべる。 せっかく作ってくれた美味しいカレーも、私の涙で少ししょっぱくなってしまう。 カレーを食べながら泣く私に美子は背中を(さす)ってくれる。 「…みこ……なんで、やさしく……する、の?」 ふと訪ねた問いに、美子は少し驚いていた。 というよりも、私がきちんとした言葉を口にしたことに驚いていたのかもしれない。 「だって、美子が好きだから。  希子ちゃんの笑顔、美子が大好きだから」 また見たいからだよ。 優しい声で、優しく言った。 私は懐かしいその言葉に再び涙を流すしかなかった。 「なんで凛は私から離れてかないの?  だってこんなに我儘で甘えたで……正直めんどくさい奴でしょ?」 いつだったか、凛に尋ねたことがある。 そう言った私の言葉に凛は急に笑い出した。 「はは! 馬鹿だなぁ、そんなの今さらでしょ?」 凛は笑顔のまま私のおでこをピンっと弾き言った。 「でも、私は希子の笑顔大好きだからね…私が、ずっとあんたの笑顔見てたいんだよ」 凛は怒ってるかな。 早く私に笑顔を見せろって、凛は怒ってるかな……? 食べかけのカレーをテーブルに置いて私は美子をギュッと抱きしめた。 今までのことの感謝と懺悔でもするかのように、ギュッと強く強く抱きしめた。 「希子ちゃん……」 私の名を零し、美子も私を抱きしめ返してきた。 その時、ふと肩に冷たさを感じた。 あぁ、美子も泣いてるのかな。 姉妹そろって抱きしめ合って、泣きじゃくって…… なんか馬鹿みたいだな。 そんなことを思ったら、美子がまた私の名前を呼んだ。 そして告げた。 「やっと、見れた。希子ちゃんの笑顔」 美子に言われて初めて気がついた。 私……笑えた? 「やっぱり希子ちゃんの笑顔は最高だね!!」 美子は涙を流しながら笑っていた。 笑えてる、その現実に私は嬉しくなった。 凛の好きだった私に戻れた。 ただ単純にそう思った。 そして私は美子の作ってくれたカレーを平らげて美子に告げた。 「明日、お母さんとお父さんの所…着いてきてくれない?」 元気な姿、見せたいから。 美子はもちろんだよ! と快く返事をしてお皿を片づけてくれた。 そんな美子を見ながら、私は美子に近寄り「手伝うよ」と言った。 美子は心底嬉しそうに頷いた。 そんな美子を見て、私も自然と笑顔になった。 「ちょっと、美子待ってよ!」 「希子ちゃんが遅いんだよ、早く早く!!」 賑やかな姉妹の笑い声が響く雲一つない青空にもう一つの声が通った。 「りん……?」 「希子ちゃん何止まってんの! ママ待ってるよ!」 「あ、うん!」 「もうその綺麗な華(えがお)枯らすなよ、このばーか」 End
write 10/03/05