悪魔と天使
「ジェイス?」
僕の一番好きな声が僕の名前を呼ぶ。
あまりにも綺麗なその声は、僕の心臓をいとも簡単に狂わせていく。
「なに? アミュース?」
そう返事を返し彼女を見ると、そこには輝かしい一人の天使が居た。
いや、違う。
あれは
「……ごめん。もう、傍にはいられないみたい」
光を好んでしまった哀れな悪魔だ。
「どうして謝るの? アミュースのせいなんかじゃないよ?」
僕の偽善的な言葉に笑みを見せる哀れな悪魔。
光を好んでしまった時から、この時が来る事なんて誰もが知っていたのに僕は泣いた。
そして、当の本人である僕の最愛の恋人までも……
「私は罰則を受け命を散らします」
あぁ、思い出したくも無い過去が頭をよぎる
「私の罪は、この二つの化け物をこの世に産み落とした事です」
その言葉と視線の先には幼い男の子の天使と女の子の悪魔が居た。
罰を受ける彼女の名はアイリーズ・ネ・リースナル。
そして、数多の非難の視線の先にいたのが、背に
黒い羽を宿したアミュース・ネ・リースナルと
白い羽を宿したジェイス・ネ・リースナルの双子だった。
「どうして私を選んだの?」
問うた質問の答えを聞かぬまま僕たちの母親は天神のもとへと行った。
母親の死を目前にしても、僕たちは涙を流さなかった。
だって仕方ない事だよね?
僕たちには感情はなかったんだから。
「死んでいるには生々しすぎ、生きているには死にすぎている」
誰かが僕たちをそう言ったことがあったんだ。
僕たちには意味が分からなかった。
死んでるって何?
生きてるって何?
命って何?
僕たちは感情のないまま成長していった。
そして、僕たちは知ったんだ。
「アミュース……愛してるよ」
人を愛することを――
「うん、私も……」
人に愛されること――
涙を流してアミュースは僕を優しく抱きしめる。
僕はただ、抱きしめられているだけ。
だって、抱き返してあげられるほど僕には余裕がないんだもん。
「ねぇ、どうしてかな…?」
ふと顔をあげ涙の止まらない僕の顔を見上げるアミュース。
「どうして僕たちなのかな?」
そう発した言葉に彼女は答えた。
彼女の一番愛してはならない存在であるはずの太陽のように明るい笑顔でこう言ったんだ。
「私たちが他の誰よりも特別だからだよ」
次の日、僕は一人で太陽の日を見つめていた。
もういない彼女の分まで僕は太陽に触れていこうと決めたから。
「アミュース、愛してるよ」
呟いた。
彼女の愛していた太陽に向かって、僕は小さく呟いた。
僕たちの存在が特別だったように。
僕たちの愛は特別なんだ。
だから僕たちの愛は朽ちることはないんだよね?
ずっと待ってるから。
君が 僕の元に帰ってくるのを。
ずっと待ってるからね…――
End
write 10/02/27