届くはずのない月
「きっれー……」 輝きが止まない夜空に目を運び、体全体でそれらの光を受ける。 暗闇を照らす小さな星と大きな月を見つめていると、昔自分が感じた事と同じ事を思った。 「……万華鏡みたい」 そう思うと、一度部屋に戻り大事に閉まってある箱を取り出した。 中には彼が初めてくれた贈り物の万華鏡。 それを持ち、再びベランダに出て空に浮かぶ小さな輝きを見る。 そして、その直後。 「さーよ? どした?」 両瞼の上に、温もりを感じた。 その温もりの上に自らの手を重ね言ってやった。 「(けい)の事、考えてた」 不意の言葉に翔の手が私から離れ、ふと振り向くと顔を赤く染めた彼を夜空の光が照らしていた。 「これ……凄い嬉しかった」 「ん…? あぁ、万華鏡?」 そんな彼に優しく笑みを送り、手にしている彼からの贈り物に目を通しながら伝えた。 そのせいで、見えるのは魅惑の美しさだけだったけど、景の顔がまだ火照ったままなのは声を聞けば分かった。 「好きな人から初めて貰ったプレゼントがこれだから」 視界には、未だに彼を写さないままで、綺麗な輝きを目前としていた。 「もしかしたら…あの頃から小夜(さよ)の事好きだったのかもな」 小さく、でもハッキリとした声が耳に届いてくると、私の目に彼を写す。 景はニッコリと微笑み、私の頭を優しく撫でる。 「届かないと思ってた……けど、届くもんなんだね」 「ん?」 何でもない、と笑いながら部屋に入っていくとえー、と嘆いている景の声が聞こえた。 私はそんな景を見て、もう一度笑う。 景も私の笑顔を見て、笑ってくれる。 届かないと思ってた どんなに手を伸ばしても どんなに背伸びをしても 夜空に浮かぶ大きな輝きには 届かないと諦めていた でも、その輝きを手に出来るのは ゼロなんかじゃなかった ほら、足元を見れば私の溜めた涙の湖がある そこに映ってるのは、私と届くはずのない大きな輝き 水面に映るその輝きに、ゆっくりと手を伸ばすと 私の手は大きな輝きに届く事が出来たんだ 「涙の数だけの幸せだね」 そう言葉を溢し、万華鏡を丁寧に元の場所に戻した。 万華鏡を片付け、パッと後ろを振り返ると 大きな輝きがそこにはあって。 「小夜……おいで?」 私は軽く頷き彼の腕に包まれる。 消える事のない温もりを感じながら。 End
write 10/03/01